最近、感じる“切なさ”の理由(わけ)・・・
最近、論理的思考(ロジカルシンキング)研修の
講師をしていて、悩ましいなぁと思うことがあります。
悩ましいというより、
切ないといった方が、より正解かもしれません。
具体的にどんなことで悩ましさ、
切なさを感じているのかといいますと・・・
と、それをお伝えする前に、
論理的思考に出てくるMECE(ミーシー)
という概念について、
少しだけお話をさせてください。
論理的思考においては、
問題解決・課題解決をしていく際に、
「モレなくダブりなく」発想しよう、
という概念があります。
この「モレもなくダブりもない」
という概念を論理的思考の世界では、
MECE(ミーシー)と呼んでいます。
私が、このMECEを初めて学んだのは、
中小企業診断士の勉強をしていた
1995年か6年ごろだったかと思います。
当時は「ミッシー」と読んでいたはずなんですが、
最近は「ミーシー」の方が一般的なようです。
「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の
頭文字を取った造語で、
訳すと「互いに重複せず、全体として漏れがない」
となります。
分かりやすく「モレなくダブりなく」。
アメリカのコンサルティング会社
マッキンゼー・アンド・カンパニーにいた
バーバラ・ミント氏が1970年代に
提唱したといわれています。
MECEの例をお伝えすると、
例えば、人を「既婚者」と「未婚者」で分類したら、
必ずどちらか一方に入ります。
両方に同時に属することはあり得ません。
モレなくダブりなく分類できているわけです。
この「既婚・未婚」のことを「切り口」と呼び、
この切り口であれば、
MECE(モレなくダブりなく)になっている
と表現するわけです。
逆に、人を「既婚者・女性」という
“切り口”で分類するとしたら、
“既婚の女性” が両方に含まれてしまいます。
これはダブりのある分類で、
MECEの切り口ではありません。
また未婚の男性がモレてしまいます。
「未婚・既婚/男性・女性」という軸を
揃えたマトリックスなら
モレなくダブりなく分類できます。
こんな感じ。
これなら人をモレもなくダブりもなく
捉えることができます。
そもそも、なぜ、このようなMECEの概念が、
仕事において必要かというと
ひとつは、思考において、
「考えたつもり」「考え切ったつもり」
になることを防ぐためです。
例えば、上司になにか提言をしたときに、
こんなことを言われたことは
ありませんでしょうか?
「なるほど○○ということだね。
で、✕✕の点についてはどうなの?」と。
例えば、こんな感じ。
部下:「売上を上げるために、
製品の改良と価格の適正化を図ります。
そのうえで、このようなプロモーションを
行えればと考えています」
上司:「なるほど。
で、お客様にはどう製品を届けるの?
流通経路に関してはどう考えている?
このまま代理店経由でいくのか、
もしくは直販でいくのか、
その辺りはどう考えてる?」
部下:「すみません、流通経路については
考えていませんでした…」
このように考えるべきことが
考え切れていないという事態を避けるためにも、
MECEによる発想が求められるわけです。
例えば、他にもこんなのも
MECEで考えられていない事例と言えます。
上司が部下の動きの鈍さを嘆いて、
「なんで、これだけ分かりやすく言っても、
動いてくれないんだろう」
と言っている。
これは、部下の行動を促すうえで
「分かりやすく伝えて、頭で理解させる」
という視点はありますが、
「部下の感情を汲んで、感情へ働きかける」
という視点が漏れている事例だったりします。
部下の行動を促すうえで、
「情緒的訴求・論理的訴求」を
考えてこそMECE。
ということで、長々とMECEとは何か、
なぜMECEが必要かをお伝えしました。
ようやくここで、
本日のテーマの最近感じている
“悩ましさ”、“切なさ”について
お伝えしたいと思います。
論理的思考の研修の場で、今までは、
今回のメルマガでお伝えしてきた通り
「MECEとは何か?」、「なぜMECEが必要か?」
を暑苦しく語り、
「思考のモレを防ぐためにも、
常にMECEで発想できるようになりましょう」
と強く、強く訴えてきました。
そして、MECEの切り口を
発想できるようになるための訓練方法も
伝えてきたわけです。
例えば、常に物事を3つの切り口で
分解する意識を持って発想の訓練をしましょう、
とか、
会議の場で人の意見を聞いたら、
対義語を意識して、
その逆の視点で発想をしてみましょう、
とか・・・
具体例を示しながら伝えてきたんです!
でも、でも、です。
ここ最近、これを一生懸命伝えれば伝えるほど
熱く訴えれば、訴えるほど
むなしさを感じるのです。
切なくなってくるのです。
なぜなら、生成AIに聞けば
MECEの切り口ぐらい
ちゃんと提示してくれますから。
生成AIに、
「このテーマをMECEで考えたいんだけど、
どんな切り口がある?3つぐらい挙げて」
と聞けば、すぐ答えてくれます。
MECEの切り口を描くための
思考の訓練なんか必要ありません。
ただMECEという概念を知っていればいい。
生成AIのビジネスへの普及によって、
すっかり世界が変わってしまいました。
研修で伝える内容も方法も、
変えていかなければいけません。
生成AIが普通に使用される世の中で、
研修講師として、コンサルタントとして、
どのような価値を提供していくべきなのか、
どのようなことが期待されているのか・・・。
この辺りが悩ましいところです。
ただ、生成AIはあくまでもツールですから、
そのツールを使って、どう生産性を高めるのか、
そのための支援をしてほしいというニーズは、
しばらくはあり得ると思います。
クライアント企業の
「業務の生産性を高めたい」
というニーズは、
今までと変わりはないと思いますので。
生産性を高めるために、
どう生成AIを使えばいいのか、
その提案の質と量が求められると思います。
そうしたニーズに応えるためにも、
まずは、生成AIを使って、
仕事をこんな風に変えられるかもしれない、
こんなすごいことができるかもしれない、
あんなこともできるのではないかと
妄想することがまずは大事かなと考えています。
その発想をいかに具現化するか、
その実行力が試される時代にも
なっているのでしょう。
しかし、本当にスゴイ時代になったものです。
これから先もどんどん変化していくでしょう。
どんな世界が待っているのか、
楽しみでもあり、恐ろしくもあります。
いずれにしろ、ダーウィンの進化論的(※)に言えば、
環境の変化に対応できるものだけが
生き残るってことなんでしょう。
※『最も強い者が生き残るのではない、
最も賢い者が生き延びるのでもない。
唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である』
ダーウィンが「種の起源」の中で記した言葉。
(ダーウィンが本来の意味したのは、
『たまたま環境に適合したものが生き残った』
という意味らしいです)

