人間の家畜化に成功したのは・・・
いやぁ~、久しぶりに面白いビジネス書を
読みました。
ユヴァル・ノア・ハラリ著「サピエンス全史(上)」。
発行されたのは2016年9月ですので、
遅ればせながら、ってことではありますが。
内容的にビジネス書といっていいのか、
若干疑問ですが、一応、昨年度(一昨年?)の
「ビジネス書部門」で1位だったかと思います。
どんな内容かというと・・・
タイトルにある通り「人類(ホモ・サピエンス)が、
誕生してから現代にいたるまでの歴史」を
著者の観点で解説する、というものです。
で、その“著者の観点”がぶっ飛んでて、
めちゃくちゃ面白い!
人類の歴史上、
「認知革命」、「農業革命」、「科学革命」
があり、それらが現代の社会に大きく影響している、
ということなんですが、
その中でも、個人的に一番面白かったのは、
「農業革命」に関する著者ハラリ氏の解釈。
世間一般的、常識的に言えば、
人類は、狩猟採集社会から農耕社会に移った、
だからこそ、繁栄を手にすることができた。
ということだと思います。
人類は農耕を始めたからこそ、
食料を安定的に確保でき、社会を築くことができ、
豊かさを手に入れることができた。
しかし、著者のハラリ氏曰く、
そうではないと言うのです。
逆に、狩猟採集から農耕の社会に移り、
人類(ホモ・サピエンス)は過酷な生活を
強いられるようになったのだと。
食料事情に関していえば、
農耕民よりも狩猟採集民の方が、
現代人が思う以上に栄養のバランスが取れていた。
飢えたり、栄養不良になったりすることが
少なかった。
それは、狩猟採集の社会では、様々な食物を
取ることができて、食べ物に多様性があったから。
さらに、特定の食物が手に入らなくなっても、
他のものを手に入れればよかった。
しかし、農耕社会では、そうはいかなくなった。
限られた食物に頼るようになったから、
天候不順でその食物が不作になれば、
他のものを手に入れにくくなり、
飢えで苦しむことになった。
もちろん、狩猟採集の時代でも
自然災害はあったが、土地に縛られることなく、
比較的災害の影響のない場所へ移動すればよかった。
また、感染症の被害も狩猟採集の時代の方が、
少なかったというのです。
天然痘や麻疹(はしか)、結核などの感染症は、
家畜に由来しており、農耕社会になって、
家畜を飼育するようになってから広まった。
農耕として土地に縛られた
永続的な居住地だからこそ、
病原菌が蔓延しやすくなった、と。
また、部族間等での争いがあったとしても、
狩猟採集の時代であれば、
負けた側はその場を離れて、移動すればよかった。
が、農耕社会では、
自分たちの耕した土地、育てた食べ物を
守らなければならない、
だからこそ過酷な戦いを
せざるを得なくなってしまった。
もちろん、著者のハラリ氏が勝手に
持論をぶちまけているわけではありません。
本の中ではしっかりとした物証や
データが示されています。
そして、個人的に何より面白かったのが「小麦」の話。
一般的には、人類が小麦の栽培に成功して、
繁栄してきたと思われているが、そうじゃない!
真実は、逆。
小麦が人間の家畜化に成功したのだ!
どういうことか?
生物における種(しゅ)の繁栄とは、
どれだけ子孫を増やすかということ。
その観点でいえば、小麦は世界中に生息域を広げ、
ものすごく繁栄しているわけです。
小麦は本来、アフリカの一部にしか生息していない
種類の植物でした。
しかも、小麦は、岩場など荒れた土地では育たず、
また水分が十分でないと育たない生き物なのです。
それが世界中に広がっている。
なぜか?
小麦が人間を使って、小石を除去させ、
水やりをさせるようにしたから。
そう、小麦は人類を家畜化することで繁栄したのだ。
事実、人間に川や井戸まで水を汲みに行かせて、
人間に今までになかった重労働を強いている。
笑ってしまうぐらいに、
そんな解釈があるのかと、深く深くなるほどぉ、
と思わされました。
今まで常識と思っていたことが
覆されるというのは本当に面白い。
人が「関心を抱くこと」、「面白いと思うこと」
には、こうした心理的要素があるのだと思います。
これはビジネスの手法に通じますね。
自分の伝えたいことがあるとき、
相手に関心を抱かせたければ常識の逆を言う。
マーケティングでいえば
自社の商品やサービスをPRするときに、
世間・お客様が常識と思っていることの
逆を言うわけです。
例えば、会社組織でいえば、
「部下のモチベーションを上げることが重要」
と一般的には言われていると思います。
それを、
「部下のモチベーションは上げなくていい。
部下のモチベーションを上げようとすると、
組織全体の生産性が落ちる」
とか、
「報連相はするな!
報連相が仕事の質を低下させる」
とか、
「組織に目標はいらない。
目標が組織を崩壊させる」
とか、
「仕事に論理的思考はいらない。
常に感情で動く社員が結果を出す」
とか・・・
なんか挙げ始めたら止まらなくなってきました。
もちろん、関心をひくだけであればこれでいいでしょう。
が、本題に入ったら、しっかりと論拠や事例は
必要になります。
だからこそ、常に常識を疑ったり、
人と違った視点で物事を見たりする力が
ビジネスマンには必要なのだと思います。
ちなみに、「サピエンス全史(上)」での
核心部分は私が一番面白いと思った「農業革命」ではなく
「認知革命」だろうと思います。
なぜ、筋骨隆々で力の強いネアンデルタール人は滅び、
非力なホモ・サピエンスが生き残ることができたのか?
それは、ホモ・サピエンスだけが、
「嘘」をつけるようになったから、
というのが「認知革命」。
他の人類種にはできなかった「嘘をつくこと」、
そして、「その嘘を信じること」ができるように
なったからこそ、力では劣るホモ・サピエンスが
生き残れた、というのです。
実際には実在しないものを、
あたかも存在するかの如く「虚構」を作り上げ、
その「虚構」をお互いに信じあえるようになった。
「虚構」を信じあえるようになったから、
「社会」を作ることができ、「集団組織」の
力で生き残れたということらしいです。
(私個人の解釈ですので、多少理解が
間違っているかもしれません。
その点はご了承ください)
この文章だけ読んでいても、
「なんのこっちゃ?」
ってことだと思います。
詳しい内容は、ぜひ本を読んで確認してみてください。
人に本を薦めることはあまりありませんが、
この本は本当に面白いと思います。
上下巻ありますが、
実はまだ上巻しか読んでいません。
下巻も続けて読んでいきたいと思っています。