値上げ交渉が苦手な営業マンの克服法
お客様との値上げ交渉が大好きっていう
営業マンはそんなに多くはないと思います。
品質に見合った価格であっても、
高額であると、提示するのに引け目を感じてしまう営業マンも
少なくはないでしょう。
日本人の思想の中には、
「お金儲けは汚いこと」とか「あくどい奴がお金を稼ぐ」
という考え方が、少なからずあるのではないかと思います。
守銭奴とか、金の亡者、暴利をむさぼる、
とかって言葉もあるぐらいですし。
私自身も、営業マン時代に、高い金額で見積もりを出すのに、
抵抗感がありました。
いまだに、そうしたことに多少気が引けるときがあります。
吉川英治の「三国志」に次のような一節が出てきます。
蜀の武将、関羽雲長が左ひじに敵の毒矢を受け、
命の危機にさらされます。
そのとき、呉の国の名医と名高い華佗(かだ)が国境を越えて、
関羽の幕舎をたずねてきます。
なぜ、敵国の呉の国からわざわざ治療に来たのか、と
尋ねられた華佗は、答えます。
「医に国境なし。ただ仁に仕えるのみです」と。
手術は骨を削り、毒を抜きと荒療治になりましたが、
なんとか関羽の容態は回復に向かいます。
当然ながら、関羽は、「百金を包んで華佗に贈った」わけですが、
華佗はそれを受け取ろうとしないのです。
そのときの華佗のセリフをそのまま転載すると、
『大医は国を医し、仁医は人を医す。
てまえには国を医するほどな神異もないので、せめて義人のお体でも
癒してあげたいと、遥々これへ来たものです。
金儲けに来たわけではありません』
で、
『飄然とまた小舟に乗って、江上へ去ってしまった』とのことなんです。
小説の中では、間違いなく、お金を受け取らないことを
美徳・美談として描かれています。
三国志の話だけで断じるのは、行きすぎかもしれませんが、
「お金に対して控えめでいることの美しさ」という思想は、
日本の教育の中で、植え付けらてきているのではないかと思うんです。
だから、営業マンも高い見積もりを出すのに、気が引けるんじゃないかと。
先進国で、日本だけがデフレに苦しんでいるというのも、
実は、このあたりに原因があるのではないかと考えています。
と言ってしまうと、話が飛躍しすぎでしょうか。
いずれにしろ、金儲けに対する抵抗感を低くしないと、
なかなか高い価格を提示できなかったり、
値上げ交渉に臆してしまったりということは起きうると思います。
では、どうしたらいいのか?
先日(10月10日)、カンブリア宮殿で紹介されていた
ハウス食品の創業者浦上靖介(うらかみ せいすけ)氏が
1965年に制定した創業理念「ハウスの意(こころ)」10か条の
9番目に出てくる言葉に、こんなのがありました。
「社会にとって有用な社である為には利潤が必要である」。
「儲けよう、利益を出そう!でも、それは社会貢献のため」ってわけですね。
先の日本人の思想から考えると、
今から、48年も前に、こうしたことを
堂々と言えていたことに、多少の驚きは感じます。
社会貢献のためという前置きはしながらも、
「利益を出そう、儲けよう!」って言っているわけですから。
まぁ、それはさておき、この「ハウスの意」は、
大きなヒントになるのではないでしょうか。
こんなふうに考えてみてはいかがでしょう?
『お金をいただくのは、私腹を肥やすためなんかじゃない!
何のためか。得たお金で、今よりももっと多くのお客様に、
もっともっとよりよい未来を提供していくためだ!』って。
自分たちのためではなく、社会のため、お客様のために
高い見積もりを出す。
社会のため、お客様のためにお金をいただく。
こう考えると、少しは値上げ交渉にも前向きになれるかもしれません。
先に紹介した名医、華佗が関羽からお金を受け取って、
そのお金で、更に医学の研究を重ね、
今まで治せなかった病気や怪我を治せるようになれば、
社会貢献ですもんね。
だから、お金をもらわなかった華佗の話は、全然美談でもないわけです。
むしろ、とんでもない奴ですよ!
営業マンの中には、
社会貢献するためにというと、少し漠然としすぎてしまって、
現実味を感じられない人もいるかもしれません。
その場合は、目の前にいるお客様にもっと喜んでいただきたいんで、
お金をいただきます、とした方が、
より実感が持て、勇気が湧いてくるかもしれませんね。
追伸
以下、「ハウスの意」全項目です。
一、自分自身を知ろう
二、謙虚な自信と誇りを持とう
三、創意ある仕事こそ尊い
四、ハウスの発展は我々一人一人の進歩にある
五、ハウスの力は我々一人一人の総合力である
六、給与とは社会に役立つ事によって得られる報酬である
七、世にあって有用な社員たるべし、又社たるべし
八、有用な社員は事業目的遂行のための良きパートナーである
九、社会にとって有用な社である為には利潤が必要である
十、我々一人一人の社に対する広く深い熱意がハウスの運命を決める