金のなる木で未来を創る ~トヨタに学ぶ「お金の回し方」
トヨタ自動車が、ハイブリッド車(HV)を
増産するという記事が出ていました。
EV(電気自動車)増産ではなく、HVの増産。
※日経新聞2月5日第1面
「トヨタがハイブリッド車3割増産
2028年、EV普及進まず需要伸びる」
2028年のHV生産台数を670万台規模へ
増やすとのこと。
世界生産約1,130万台のうち
6割をHVが占める計算になります。
米国では今後5年で最大1兆5,000億円を投資。
まずは約1,400億円を投じて
HV用エンジンや部品を増産するそうです。
で、この記事の最後に、書かれていたのが、
以下の一文。
『競合が戦略を修正して追い上げを狙うなか、
(トヨタは)HVで稼いだ資金を次世代車の開発に生かす』
この一文にトヨタの強さが
表れている気がするのです。
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント
(PPM)という考え方があります。
経営資源(ヒト・モノ・カネ)を
最適に配分する戦略フレームワーク。
ものすごく簡単にいうと、企業において
どの事業で利益を出し、
その儲けた利益をどの事業に使うか、
というお金の流れをマネジメントする考え方です。
以下の図をご覧ください。
縦軸が市場成長率、
事業の市場が伸びているのか、
伸びていないのか、
伸びていれば、“高”いし、
伸びていなければ“低”い、
となります。
横軸は、相対的な市場のシェア。
自分たちの事業のシェアが競合他社と比べて
相対的に高いのか低いのかの軸です。
図には4つの象限があります。
●左上の「問題児(英語でProblem Child)」
市場は伸びている。
その市場の伸びに対応すべく、
開発コストや設備投資などお金が必要。
しかし、シェアは低い。
だから売上はあまりない。
すなわち売上<コストとなり、
将来性はありながらも、
キャッシュが残らない事業となります。
●右上の「花形(英語でStar)」
市場は伸びている。
開発コストや設備投資などお金がかかる。
シェアは高い。だから売上はあがっている。
売上≒コスト
市場は活況を呈していて、売上は上がれど、
キャッシュは残らない事業。
●右下の「金のなる木(英語でCash Cow)」
市場は伸びていない。
なので、新たな開発も設備投資も
それほど必要ない。
シェアは高く、売上はある。
売上>コスト
キャッシュが残る事業となります。
●左下の「負け犬(英語でDog)」
市場も伸びていない。
シェアも低い。
PPMの考えで言えば、
『「金のなる木」で稼いだお金を「問題児」につぎ込み、
市場が伸びているうちに「花形」に育てる。
その「花形」事業の市場の伸びが鈍化した時には、
「金のなる木」としてお金が残るようにする』、
これが理想的なお金の流れなのです。
トヨタの場合で言えば、
HVは、まだまだ市場が伸びているので、
「花形」に当たります。
が、限りなく「金のなる木」に近い
「花形」でしょう。
研究開発費は、他の自動車メーカーに
比べたら圧倒的に少なく済むはずですから。
事実、ゼネラル・モーターズは
HV開発に強いメーカーとの
共同開発を開始しています。
つまりこれからお金がかかる。
また、フォード・モーターも
EV投資の見直しを進め、
巨額の追加費用を計上しました。
EVに力を入れていた企業はこれから、
HVへの研究開発や設備投資に
お金をかける必要があるわけです。
当然、HVの研究開発をし、生産体制を整え、
販売体制を整えるには、お金だけではなく、
時間もかかります。
その点、トヨタは、記事にあったとおり
HVで稼いだお金を次世代車の開発に
回すことができるし、
時間的にアドバンテージもあります。
トヨタにとってHVは1997年の「プリウス」以来、
約30年近く磨き続けてきている技術なのですから。
世界シェアは約6割。量産効果も出ている。
研究開発は継続するにしても、
ゼロから積み上げる段階ではありません。
成長市場でありながら、投資負担は相対的に軽い。
ここから生み出されるキャッシュを、
EVや次世代電池、ソフトウェア開発に回せる。
資金の流れがものすごく理想的ですし、
時間的なアドバンテージもある。
こう考えると、
トヨタにとってものすごく有利な状況が
出来上がっています。
で、思うのは、
『なぜ、トヨタはこのような状況を
作り出せたのか?』ということ。
不思議です。
一時期、トヨタがEV開発に
遅れていて、株主からもいろいろ
言われていたのではないかと思います。
「EVにもっと力を入れろ」と。
それでも、EVに軸足を持って行かず、
全方位戦略を取ってきた。
というか、EVにあまり興味を
示していなかったように思えます。
EVが地球環境に優しいから普及する、
というきれいごとではなく、
EVは、欧州のトヨタ潰しのネタであり、
政策依存であることを
見抜いていたからなのでしょうか?
本当によくEVにシフトせず、
「全方位戦略」を掲げてきたものだと思います。
HV、PHV、EV、水素・・・
とはいえ、今後、EVが急速に
普及する可能性もあります。
こうした不確実性の高い経営環境だからこそ、
様々な未来予測に対応できる
選択肢を用意しておくことが
これから求められるのかもしれません。
戦略として「全方位戦略」は、
資金力がなければ
なかなかできない戦略です。
資金力が限られている企業には
難しいことと思われるかもしれません。
しかし、少なくとも顧客1社に
売上の7割を依存しているとか
特定の業界に依存しているとか、
一つの製品・サービスに売上・利益が
偏ってしまっているといった
一本足打法的な状況にならないように
努めることはできます。
特に中小企業さんの場合は、
顧客が一社依存だといつなんどき何があるか
分かりませんから、なるべくそうした状況を
脱していった方がいいと思います。
トヨタの今回の動きは、
その重要性を改めて
教えてくれている気もします。
ちなみに、私の場合でいうと、
思い出すのは、
2008年のリーマンショックのときですね。
そのとき売上の約半分ほどを特定の
企業に依存していました。
リーマンショックでその企業からの
仕事が激減した時には、めちゃくちゃ焦りました。
それ以降、なるべく売上を特定の企業に
依存しないようにと取り組んできてはいます。

