「禿か?」「いえ、禿ではございませぬ」
先日、ある企業で「新入社員フォロー研修」を行ってきました。
半年前には、“新入社員”で、仕事をすることに不安ばかりの彼らでしたが、
半年間仕事をしてきて、仕事の楽しさや辛さを語れる“社会人”となっていました。
その「新入社員フォロー研修」で「報告・連絡・相談」に関して話をした際、
司馬遼太郎の本からの一節を紹介しました。
「国盗り物語」第3巻に出てくる一節です。
ちなみに、国盗り物語は、
「美濃の蝮(まむし)」と呼ばれた斎藤道三と織田信長が主人公の歴史小説です。
以下、斎藤道三が織田信長に面会を求める使者を送った際の一節。
「なに、美濃から蝮の使者がきたと?」
と、信長はいった。
「どんなやつだ」
「堀田道空と申し、美濃の山城入道さま(斎藤道三)のご重臣でございまする。
お頭が、まるうござりまする」
「禿か」
まだかぞえてハタチの信長は、妙なところに関心を持つらしい。取次ぎの者が、
(禿であろうとなかろうと、どちらでもよいではないか)
とおもいながら、
「いえいえ、毛を剃っておりまするゆえ、禿ではございませぬ」
「その頭は、青いか」
「青くはございませぬ。赤うござりまする」
「そちは馬鹿だ」
と、家来をにらみつけた。
(馬鹿はこの殿ではないか)
と家来が恐れ入っていると、
「聞け、赤ければ、その頭は半ばは禿げておるのだ。
なぜ、半ばは禿げ、半ば毛のあるところを剃っておりまする、と申さぬ」
(あっ、道理だ)
と家来は感心したが、ばかばかしくもあった。どちらでもよいことである。
「よいか、そちはいくさで偵察(ものみ)にゆく、
敵のむらがっている様子をみて、そちはとんでかえってきて、
『敵がおおぜいむらがっておりまする』と報告する。
ただおおぜいではわからぬ。
そういうときは『侍が何十人、足軽が何百人』という報告をすべきだ。
頭一つみても、ただ『禿でございます』ではわからぬ。
おれはそんな不正確なおとこはきらいだ」
以上
新入社員の人たちには、報告する時には、
「ちゃんと事実を事実のまま正確かつ具体的に伝えることが大事」と話をしました。
ちなみに、この信長の部下(家来)、そのあと即刻クビでした。