そのコーチングが部下をダメにする
コーチングの研修などをしているときに、よくこんな質問をいただきます。
「部下に考えさせようとしても、
どうしても答えが出てこないときもあると思うんですが、
そんな時はどうしたらいいんですか?」
この答えが出てこない(出せない)という理由は、
大きく2つ考えられます。
一つは、上司側のコーチング力の低さ。
上司と部下との信頼関係も含めて、上司の方にコーチング力、
特に部下の考えを引き出せるだけの質問力が低い場合は、
なかなか答えを出すことができません。
もう一つは、部下の知識や経験が不足していて、
本当に自分としての考えを出せないケース。
極端な話、小学1年生に、
「どうしたらもっと教師の教育レベルを高めることができると思う?」
と質問しても答えられるものではないでしょう。それと同じです。
先日(5月21日)のNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で、
岡田武史監督が取り上げられていました。
岡田監督が指導者としてこだわっていることが、
「教えずに気付かせること」とのこと。まさに「コーチング」です。
岡田監督曰く、
「求めるのは“指揮官の戦術を超える力”。
なぜパス回しができないのか、なぜボールを奪われるのか、答えは教えない。
答えを教えれば、選手は自分で考えることをやめてしまう。
それでは独創的なプレーは消え、指揮官の器以上のチームには育たない。
だから答えに気付かせるメニューを考えチームを刺激していく」
とのことでした。
岡田監督が目指す「強い組織の姿」とは、
「神経が通い合うひとつの生命体」。
具体的には、どんな姿かというと、他の人が何を考えているかのか、
その意図を感じ取り、瞬時に連動して、一体となった動きができる
組織体のこと。
そのために、絶対的に必要になるのが、「自ら考え、動く力」。
だからこそ、岡田監督は、「教えずに、考えさせて気付かせる」ことを
大切にしているのです。
岡田監督自身の役割は、
いかに選手たちが気付きやすいメニューを考えるか、
ということになります。
企業組織で言えば、部下が気付きやすいように、
上司として、信頼関係を築き、
傾聴力や質問力などのコーチング力や論理的思考力を
高めていくことでしょう。
しかし、問題は、どれだけ上司側が気付かせるためのコーチング力を
高めても、部下に知識や経験が不足している場合です。
岡田監督も、現在は中国のクラブチーム(杭州緑城)の
監督として指導・指揮にあたっていますが、
まだまだ発展途上のチームで、なかなか岡田監督が期待するようには、
自分たちで答えを出しきれないメンバーばかりなのです。
教えずに気付かせようとしても、なかなか気付けない。
気付けないから、試合でも結果が出せない。
結果が出せないから、自信もやる気も失ってしまう・・・。
そんな状況で岡田監督が行なったのが、「答えを与える」ということ。
ポリシーに反してはいますが、強い組織を作っていくための、
一つのプロセスとしては、どうしても必要なものなものと判断したわけです。
答えを与えて、その通りに動かせてみる。
するとそれなりの結果が出てくる。
結果が出てくれば、選手の自信もやる気も沸いてくる。
答えを与えずに気付きを与えるのが「コーチング」、
答えを与えるのが「ティーチング」だとすれば、
どちらが良い悪いではなく、相手のやる気が高まって、
行動につながればいいわけです。
コーチングの方が、行動につながるのであれば、コーチングをすればいいし、
ティーチングの方が、行動につながるのであれば、ティーチングをすればいい。
ただ、いつまでもティーチングでは、考えなくなってしまうので、
そこは考慮しなければいけないのは言うまでもありません。
組織の中には、未熟な人も成熟した人もいるわけで、
コーチング一辺倒ではうまくいないということですね。
基本的には、まずはコーチングをしてみて、
まだ自分で答えが出せないなぁ、と思えば、ティーチングをしてみる、
というのがいいのではないかと考えています。
岡田監督のように。
ただ、岡田監督の場合、教えるときにはかなりの葛藤があるようでした。