できる上司はいわない言葉。
司馬遼太郎の「城塞(上)」より。
城塞は、豊臣家が徳川に滅ぼされる「大阪の陣」を題材にした歴史小説です。
そのなかに、こんな一節があります。
豊臣家家老の大野修理(おおのしゅり)が、軍略・政略の補佐役、小幡勘兵衛(おばたかんべえ)に
豊臣家を裏切った片桐且元(かたぎりかつもと)をどうするか、
相談する場面でのことです。
(ちなみに、小幡勘兵衛は、実は徳川方の間諜(スパイ))
(小幡勘兵衛が)
「ここはおとなしく退去させておしまいになるのが上分別と申すものでしょう」
というと、修理はうなずき、
「わしもそうおもっていた」
と勘兵衛の案の尻馬に乗った。修理のくせであった。勘兵衛がいくら妙案を出しても、
―――ああ、そのことはわしも気づいていた。
と、いう。
勘兵衛の案を採用してくれるのはありがたいが、返事はかならずそのひとせりふがつく。
すこし構えている。勘兵衛のみるところ、古往今来のよき大将はとは、配下に意見を出させると、
そのことを大将みずから考えてはいても、
「何兵衛、よう気づいた」
と大ほめにほめるものなのである。であればこそ配下の者どもは智恵をしぼって策を考え、
それを上申することをよろこぶ。
修理のようでは、よく幕僚はできまいと勘兵衛はひそかにおもったが、しかし勘兵衛は
みずから構想することに芸術的なまでの衝動とよろこびを感じているため、
修理がどうであろうと、思いついたことは今後もすべて修理に話すつもりであった。
以上
う~ん、確かにこんな上司、周りにいませんか?
上司だけでなく、部下でもこんなタイプの人いますよね。
上司が一生懸命アドバイスをしても、
「あっ、それはもうやってます」とかっていう。
上司であれば、やはり部下からのアイデアをうまく拾い上げ、
自分の頭にあったことでも、
「なるほど、そういう案があるか、おもしろい!」ってぐらいいえてもいいんでしょうね。
もしどうしても、これは無理というのであれば、
「なるほど」ぐらいをいって、
「それなら、さらにこうしてみるといいんじゃない・・・」と
自分の考えを付け加えてもいいでしょう。
ところで、なぜ、大野修理のように、
こうして人の案をさも既に考えていたかのようにいうのでしょう?
自尊心の低さによるものかもしれません。
上司の場合でいえば、
部下が考えられた案を自分は考えられなかっとなったら、自尊心が傷つくわけです。
もともと自信があって、自尊心が高い人は、これぐらいのことで傷つきません。